My徒然日記帳

スナップショットの感覚で世の中の事象をとらえ、浮かんだ考えを気ままに綴っていきます。

プロが乗る自転車

昔のロードレーサーはよくエースだけが特別製だったと聞きます。どういうふうに特別かというと、チームが使っている自転車メーカーに乗るのは絶対なはずですが、エースだけが外観をチームと同じカラーに塗って、実は中身はお気に入りの工房のフレームだったというような話です。そんな我が儘が通ってしまうくらい昔のエースは特別待遇だったんでしょうね。私がロードレースに興味を持ち始めた頃、東独出身のエース、ウルリッヒ(1997年ツール総合優勝)がプロトタイプのピナレロ(プリンスのカーボンバックステーが細身のタイプ)に乗っていて、エースっていうのは特別なんだなあと思って観ていました。ツールドフランスに総合優勝するというのは大変な偉業で、そのくらいの格になると、もう特別扱いせざるをえないんでしょうね。ただし今はそういう事は無くなったと思います。

Jウルリッヒが乗るプロトタイプのピナレロ

ではツールドフランスでプロが乗っている自転車は市販品と一緒なのでしょうか?チームはそんな風に選手を甘やかすような事をするかというと、恐らく否です。逆に言うと与えられた機材のレベルとは関係なしに、文句を言わずに結果を残すのがプロのレーサーとしての責任で有り、プライドでもあると思います。どこかの雑誌で読みましたが、やはりプロが乗っているフレームは市販品と変わらないと書いてありました。今はコマーシャルにお金をかける時代で、米国企業のTREKなんかはその筆頭だと思いますが、自転車をチームに供給するのは商売のためで、広告費の一部と考えているのでしょう。すなわち市販品を供給した方が売り上げに結びつくからだと思います。

Eメルクスが乗ったDE ROSA。デローザの名前はどこにも無い。

DE ROSAとCOLNAGOを比較するときに、よく商売上手なエルネスト・コルナゴに対して、職人堅気なウーゴ・デローザみたいに言われます。エルネストは自分でバーナーを握ってフレーム作りをやるのではなく、腕利きの職人を雇って自分はマネージメントの方に専念して力を発揮するというやり方で成功した人です。逆にウーゴはエディ・メルクスみたいな大選手の要求に応えて、愚直にフレームを作り続けてきた職人です。雑誌で読んだのですが、ウーゴ・デローザは「昔はプロの選手に対してフレームを作ってやったものさ。選手は金を出して俺のところに頼みに来た。でも今は時代が変わって商売のためにこっちが金を払って頭を下げて使ってもらうようになってしまったね」と嘆いていたそうです。そういうウーゴの言葉に、職人としての誇りと心意気を感じます。私はDE ROSAが日本で人気があるのは、そういう日本人にも共通した「ものづくりへのこだわり」が背景にあるのではないかと思います。

アルミ・フレームのメラクを担ぐウーゴ・デローザ。

そんなDE ROSAですが、スチール・フレームが主役の座をアルミ・フレームに明け渡すと同時に、ウーゴは引退して自分の子供達に会社を譲りました。アルミ・フレームは溶接の加工が難しく、メーカーが指定した特別な設備を入れる必要があり、それが出来る資金力がある大手メーカーが独占する様になりました。それまでイタリアには小さな自転車工房がたくさんありましたが、多くの工房が店を閉めました。それと同時に、職人の腕がものをいう時代は終わりました。今はカーボン・フレームの時代になって、工場での大量生産が可能です。大量生産によるコストダウンで、高性能なカーボンフレームを安く手に入れることが出来る様になりました。でも私は、何か大切なものを失ってしまった様な気がします。